FUKAIRI

Report

無料になる人類の英知

アプリでAmazon プライム・ビデオを立ち上げれば、膨大な量の映像作品がほぼ無料で閲覧することができます。黒澤明も、小津安二郎も、キアロスタミも、スピルバーグも。映画を見ることが貴重な時代を経て、レンタルショップでVHSをレンタルできる画期的な時代を経てきた方々にとって、狂喜乱舞するような出来事ではないでしょうか。
Kindleで文学作品を探してみれば驚愕の事実に気づきます。文学の天才たちの作品がほとんど無料でダウンロードできるのです。夏目漱石も、森鴎外も、トルストイ、欲すればいつでもほぼ無料で手に入ります。少しずつ文学を購入して読書家になってきた人々にとっては少々複雑な気持ちになるほどです。

そのほか、社会的な情報も、辺境の土地の画像や映像も、言語が通じない人たちであった土地の人々のコミュニケーションも、ネットの中に可視化されています。こうした現実に不安を抱く人たちも少なくありません。確かにこうした人類の英知や情報は、扱い方次第で我々に牙を向きます。その時、私達が受ける傷は致命傷となりうるものでしょう。しかし一方で、私たち人間はありえないほど幸福な状況下にある事実も理解すべきだと思っています。人類が蓄積してきたあらゆる英知に、歴史上最も低コストかつ手軽にアクセスできる時代が到来しているのです。

同時に、現代に生きる人たちにはある重要な課題が突きつけられています。これだけの英知に、いつでも無料でアクセスできる環境下にある私達のクリエイティビティは、これまでのどの時代よりも豊かで高度なのかという問いかけに対してどう答えていくのかという現実です。ジャーナリズムも、デザインも、アートも、カルチャーもすべて、人類史上最も価値ある作品や思考を生み出せるはずの環境を生かしきれるのかという事実です。こうした事実の価値に本当の意味で気づいている人は、どのくらい増えているのでしょうか。さて、私達の思考は健全に活動しているでしょうか。

フカイリでは、あらゆる英知を現代のデザインのソースにしています。勝手に背負ったつもりでいる重荷ですが、それが私達の社会的責任のひとつだと考えています。クリエイティブなことを求められるすべての職種にとって、文字通り幸福な時代にいるはずです。日々の思考を研鑽し、社会知の向上に自らの技術や知識を加えていく喜びの真っ只中にいるはずです。単に、見た目の格好よさや、効率的な方法を模索するのではなく、新たな文化的な礎の一つになるために何ができるかを思案しています。

Related posts